きもので手抜き生活

「甲斐荘楠音の全貌」展 ~京都国立近代美術館~

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)は、大正から昭和にかけて活動した日本画家です。彼の描く女性像を一度見た人は、何かにとりつかれたような怪しげな表情や洋画風の立体表現を駆使しながら艶めかしい肉体を感じさせる画風に強烈な印象を受けて忘れることができなくなります。

一時は彼の作品も評価されたようですが、保守的な日本画壇からは反感を買い段々と表舞台から忘れられた画家です。20年ほど前から再評価され始め、自分も日本画はそれほど興味を持たないけれども、甲斐荘楠音だけは別格の個性を感じていました。

今回の展覧会を訪れて初めて知った大きな事実が二つありました。一つは、彼がトランスジェンダーであったこと。彼が残した様々なスケッチや写真の多くは、自らが女装し着物を羽織りポーズをとっています。もちろん女性モデルを使っている場合もありますが、彼本人が同じポーズをとると、まるで世界観が違ってみえてくるのです。幼少時代から興味を持って観劇していたという歌舞伎などにも通じる、男性が女形を演じるからこそにじみ出てくる雰囲気や何ともいえない肌感を「肌香」(はだか)と彼は呼んで、何としてもそれを表現することを追及していたように感じられます。

もう一つ分かったことは、日本画の世界から次第に遠のいていくとともに、彼は時代劇映画などの衣装を手掛けるようになったことです。

彼がデザインした衣装も実物が数十点展示されていて、その大胆さや豪華さが画面の役者さんの動きの中でどう生かされるかがよく考えられていて、とても面白いものです。

最近着物に興味が湧いてきている自分にはとてもそそられるコーナーでしたが、本来の楠音にしかない怪しさや艶めかしさは着物の衣装には表れていないのが残念です。

もし、当時の日本画壇がもっと彼を評価していたら、彼もたくさん作品を残し独自の世界が繰り広げられただろうことを思うと惜しい気がします。

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