アート

興福寺国宝館 ~仏頭とYちゃんの思い出~

自分が入った大学の学部は美術系で、当時1年生の夏休みは全員研修旅行として奈良を訪れてレポートを書くことになっていました。適当なグループごとに計画を立て、いろいろな場所をめぐるのですが、興福寺国宝館は必須でした。

小学生の頃修学旅行で奈良を訪れたことはありましたが、東大寺と若草山くらいしか行ったことがありませんでした。仏像入門書などに載っている阿修羅像などの国宝の仏像をじっくり鑑賞するのはこのときが初めてで、新鮮な感動を覚えました。

同じグループで仲の良かったYちゃんが、興福寺の仏頭に似ているということが以前から仲間の間で話題でした。みんなで実物を見に行き、やっぱり似ているなあと思いましたが、本人はあまりうれしそうでもなかったのでいろいろ言いうことはやめました。

その後学生時代に友達と何度かいろいろな旅行に行きましたが、入学3か月でお互いのことがようやくわかりかけてきたころだったので、親睦を更に深めるのにとてもいい忘れられない楽しい旅行でした。

そのYちゃんは大学卒業後、バーレーンの日本人学校に赴任しました。バーレーンからヨーロッパ方面は比較的近くて、長期の休みごとにヨーロッパに旅行に行っていたようです。帰国する度にいろいろな国のお土産や絵葉書をもらったり、面白い話を聞くのが楽しみでした。

特に面白いと思ったのは、バーレーンの小学校での遠足の話です。遠足と言っても、街から一歩出るとそこは一面の砂漠なのだそうです。えっちらおっちら砂漠を歩いて適当な場所を到着地にします。そこでまず先生たちが最初にやる作業が、トイレづくりです。スコップで穴を掘り、周りから見えないように棒と布で囲っただけで出来上がりの簡単なものです。

当時でも日本中どこへ行ってもトイレがなくて困ることはなかったし、日本では少し郊外に行けば豊かな自然に触れ合えるので、遠足と言えば自然の中か文化的な学習ができる場所と決まっていたので、この話には相当驚かされました。

でも何もない砂漠でも、子どもたちは大喜びで走り回り、お弁当を食べて楽しんだそうなので、それはそれで貴重な体験なんだろうなと思いました。

そんなYちゃんも、バーレーンで知り合った日本人男性と現地で結婚し、まもなく妊娠したという知らせを受け喜んでいました。ところが間もなくちょっとした風邪がもとで急性妊娠中毒症を起こし、あっという間に彼女は命を落としてしまいました。

大学時代は陸上部に所属し、体育会系のがっしりした体つきで丈夫だったYちゃんが、そんなことになるなんで誰も信じられませんでした。バーレーンでなく、日本の病院だったらもっと適切な治療ができたのではないかなどと、いろいろ考えましたが後の祭りです。

私は、自分にとって特に仲のいい友達を、20代のうちに二人亡くしています。もちろん自分たちも耐え難い深い悲しみを感じるのですが、その時のご両親の悲しみ様は見るに耐えないものでした。

それ以後「自分は決して両親よりも先に死んではいけない。」と思っています。そんなこと思い通りにできることではありませんが、少なくとも自分から命を絶つようなことは絶対にしてはいけないと感じてきました。

興福寺の話から随分違う方向に話が飛んでしまいましたが、私は、興福寺の仏頭を見る度に、どうしても懐かしいYちゃんとの思い出に浸ってしまうのです。そして、またあの時の仲間と一緒にここを訪れることができたらどんなに楽しいだろうとふと思うのです。

 

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