夫は以前から絵金(えきん)が好きで、高知まで行って作品を見てきたことがあるそうです。
ずっと以前、夫がどこかに何かを見に行ったというのは覚えていますが、絵金だったというのは今回の展覧会で初めて知りました。
きっとその時の自分には何の興味もそそらなかったのでしょう。絵金の存在すら頭の中にありませんでした。
絵金とは絵師・金蔵のことで、1812年生まれの江戸末期の人です。16歳で江戸で修行をし、弱冠20歳で土佐藩家老の御用絵師になったそうです。
けれども、贋作事件に巻き込まれ、城下に追放された後は、町絵師として人気を博し土佐各地に作品を残しました。
絵金は芝居絵屏風という形式で、たくさんの歌舞伎絵を残しています。多くは二曲一隻の屏風に描かれている作品を、高知市や香南市のお祭りの時に展示したそうです。
展覧会の会場には、祭りの様子の映像が流されています。神社への参道に、門の様に建てられた絵馬台の上部にはめられた作品を、楽しむ人々の様子がよく分かります。また、絵馬台ごと美術館会場に展示されているものもあり、祭りの雰囲気を味わいながら鑑賞できる部屋もありました。
これら作品の多くは、芝居のクライマックスシーンで、首を落とされたり刀で切りつけられたりして画面中に血のりが飛び散っていて、ぎょっとするものがたくさんあります。なぜ展覧会のパンフレットのコピーに「恐ろしいほど美しい」とあるのかすぐに理解できます。
現代人は、比較的こういうシーンに慣れていたり、芝居絵的な表現にはリアリティが感じられないので「うわっ。」と一瞬思うだけですが、当時の人々には後々までリアルでショッキングなシーンとして脳裏に焼き付いたのだろうと思います。会場での説明文に、「当時の村の人々は、祭りが終わったら、片付けよりも先に提灯の灯を消すのが先だと言われた。」と書いてあるように、よほど怖かったのでしょう。
夏になると、土佐地方の各地で絵金を披露する祭りが行われます。いつか現地に赴き、お祭りを楽しんできたいものだと思います。