手抜き生活

心の動きを縫い留める刺し子

ずいぶん昔のことですが、知り合いのお宅を訪ねてお茶を頂いたときのことです。お茶のポットに添えられた布巾にかわいらしい刺し子が施されていました。

「素敵な布巾ですね。手作りですか。」と尋ねると、その方はご自分の子どもさんが不登校になったときがあり、一時期自分の精神状態も不安定になってしまったそうです。それで、心を落ち着かせるために、刺し子をしたのだとおっしゃっていました。何十枚もあった布巾の刺し子の一針一針の跡は、そういった心の葛藤のはけ口だったのです。

戦時中千人針といって、出征する方のために本人の家族や近所の人々が衣類や寄せ書きなどに縫物を施したお守りのようなものがありました。それから90年以上もたった現在では、コロナで部活動が思うようにできなかった高校の後輩が、先輩のコンクール出場を願ってマスク形のマスコットを手縫いで作っているのをテレビで見ました。今も昔も人々の想いを込めるには、手縫いや編み物などがいいのでしょう。

現代美術作家の塩田千春さんという方の作品は、赤い糸が無数にからみあった空間の中に、鍵や本などがその糸にからめとられて浮かんでいたりします。多くの人の共感を呼ぶ作品で話題となっています。糸は不規則に絡まり合っていますが、絡まっていく中で、何か見る人の心を揺さぶるようです。

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