ずっと昔、ある画廊を訪れると、雪に覆われた村の中に、ぽつりぽつりと人が歩いている風景画がありました。
当時は風景画に関しては、セザンヌ以外はあまり興味がありませんでした。けれども、たまたま画廊にみえた方が「この人に日本の雪の風景を描かせたら右に並ぶものがいない。湿った雪国の冷たい空気感まで描ける人はそうはいない。」
そうおっしゃるので、何気なく見ていたその風景画をもう一度見つめてみると、殆ど白い絵の具に覆われたキャンバスの中には、凍える冷たい空気を吸いながら歩く人にシンクロするような感覚を覚えました。
その絵を描いた人が、現在兵庫県立美術館で展覧会が開催されている金山平三です。その時以後、雪の風景画でこれ以上の絵を見たことはありません。
金山平三は、明治になってからの日本の洋画壇の正統派として王道を歩んだ人です。自分はどちらかというと画壇に認められる画家よりも、画壇から外れた革新的な新しい感覚の作品の方が好みです。
けれども、金山平蔵の揺るぎないデッサン力や表現力はどの作品を見ても疑いようがありません。
特に「祭り」という作品は、完成作でありながらやや粗いタッチで、人々が踊る動きを静かに見つめながらも躍動的に表現しています。
ブルターニュ地方の祭りの人々の様子を描いていますが、金山特有の顔の表情をあまりはっきり表現しない描き方です。後ろ向きの多いとらえ方でもあり、楽しそうというよりは、寒くつらい冬を越し、無事に春を迎えることができるホッとした心もちで踊っているように感じられます。
横長のキャンバスに、一人一人の心や体の動きを表現しながらも、全体の踊りのリズムをまとめ上げる力量に、近代洋画の日本人の想いが込められているようにも感じました。