アート

「モリのいる場所」と「熊谷守一つけち記念館」

画家熊谷守一(くまがい もりかず)の晩年の生活を映画にした「モリのいる場所」を見たことがあります。最初のシーンはとても印象的で、ザーザーと降りしきる雨の庭をカメラがゆっくりと回転して写していきます。或るところでカメラが止まるのですが、なぜだろうとぼんやりその庭の木々を眺めていると、守一が庭の中にいてこちらを見ているのです。こちらというよりも、彼も庭の一部になって庭を見ています。

特にストーリー性があるわけではないのですが、映画は彼が住んだ東京都豊島区の家や庭での場面でほとんどが構成されています。晩年の45年間住んでいたという家は、それほど大きくもない普通の古民家です。その後半の30年間くらいは、全く家の敷地から出たことがないというから驚きです。

この映画は、山崎努演じる守一が「行ってきます。」と言って出かけると、数時間かけてその庭の中を散策して縁側に戻ってきます。「おかえりなさい。」と言って樹木希林演じる奥さんが飼っている鳥の世話をしながら待っている毎日を描いたものなのです。

この家の普通と違うところは2か所あって、その一つは自分で掘ったという池です。池というよりも、レンガの階段を降りていく洞窟の中に水がたまったような場所です。そのレンガに座って彼はアメンボや小さな魚を見つめて何時間も過ごすのです。映画は時々おかしな場面と繋がり、この池に宇宙人がやってきて異次元との交信をするのです。

もう一つの普通でないところは、彼は有名な画家なのに絵を描いている場面は全く出てこないことです。家の中の奥まったところにアトリエがあって、夜になると奥さんに「そろそろ行く時間。」と催促されてアトリエに行かされるのです。映画ではアトリエのドアを開けて入っていく姿までしか描かれておらず、その先のアトリエがどんなところなのか、どんな様子で描いているのか見せないだけに興味が湧きます。

岐阜県付知町にある「熊谷守一つけち記念館」は彼の実家跡地に建てられた美術館です。この美術館に付属する小さな庭は、豊島区にあった庭の一部を再現したもので、あの池もあって中に降りていくことができます。

また、彼の様子を写した写真なども展示されていて、謎のアトリエの写真もありました。ごちゃごちゃした小さな部屋ですが、アーティストのアトリエというのは本人の想いが凝縮されていて面白いものです。

二階展示場では「カルサンと小鳥」がテーマの展示でした。守一の仙人のような風貌をつくる、トレードマークの一つであるモンペのような野良着カルサンは、結構おしゃれです。最近モンペでさえおしゃれアイテムとして話題になるほどなので、そのうちカルサンがファッション界で大ヒットするかもしれません。

東京都豊島区の彼の家跡にも美術館があるそうなので、今度行ってみたいなと思っています。

 

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