奈良県立美術館で開催されている「生誕200周年記念 森川杜園展」を見てきました。
森川杜園は江戸末期から明治にかけて活躍した人で、江戸時代からある伝統工芸である木彫りの奈良人形を作っていた人です。奈良人形は、能楽の場面や高砂人形などをざっくりとした彫り痕を残しながら形作り、彩色したものです。
自らも能を舞う人だったそうで、良く知った人でなければ表現できない能衣装の細部まで正確に捉えて表現してあります。
杜園は鹿の彫像制作に力を入れていて、会場にも数多くの大小様々な姿の鹿をつくっています。現存している数も不明ですが、千体の鹿をつくることを目指していたそうです。
能人形などは、伝統的な技法に則って仕上げてあるのですが、鹿像については、たくさんの鹿をつくるうちに、杜園独自の表現を発展させていったようです。明治時代に入り、西欧の芸術技法がどんどん日本の芸術に取り入れられた時代だったので、平櫛田中や高山高雲など近代彫刻(木彫)の祖と言われる人たちの先駆け的な存在だったのかもしれません。
杜園はその技術を見込まれて、作品制作以外の仕事も請け負っていました。それは、正倉院の宝物や奈良の寺社の宝物の模写や摸刻などです。
その中の一つに石の狛犬の摸刻がありました。どう見ても石にしか見えませんが、木で作ってあるそうです。これは、東大寺の運慶・快慶が作った仁王像が収められている仁王門の裏側にある狛犬を五分の一くらいのサイズに作ったものです。
この後、東大寺に行って実物を見てきましたが、とても地味でこれをじっくり見ている人はいません。今までスルーしていたようなものまで、新たな視点で鑑賞できるのはいいと思いました。