アート

唐招提寺

唐招提寺というと、井上靖の「天平の甍」を思い起こす人は随分年齢がいっている人でしょうか。若い頃この本を読み、当時は遥か遠方の唐へ命がけで渡って仏法を学び、何とかして鑑真に来日してもらおうとした遣唐使たちの物語に感動しました。

ここは前日にブログに書いた薬師寺に近接していますが、両寺とも東大寺や奈良公園辺りから離れているので訪れる機会がなく、今回初めて来ました。

でも、金堂やその屋根にある鴟尾(しび)を見上げると、なぜか懐かしい気持ちになります。小説の最後の唐招提寺の甍を見上げる僧のイメージを思い起こすからでしょうか。

金堂の正面の八本の柱は、他の寺にはない威厳を感じます。ギリシャのパルテノン神殿の柱と同じエンタシスという柱の中央部分が膨らみを帯びた様式が、上方へ伸びる柱の遠近感を強調するからだと思います。

自分は2年前にギリシャのパルテノン神殿に行き、石造りのエンタシスの柱を見上げてその偉大さに感動しました。あの時の柱と唐招提寺の柱がつながっているということに更に感動を覚えます。何千年もの文明の交流の中で、人々が文化を遥か彼方東方にまで伝えてきたという、人と人とのつながりはすごいものだと思います。

鑑真というと、社会の教科書に載っていた鑑真和上像を思い浮かべます。5度も渡日に失敗し、6度目の渡航で来日した時には失明していたという話の通り目を閉じた姿で、強い意志を感じます。

この像は御影堂に収められていて、年に数日しか開扉しません。平成25年には、寺を訪れた人がいつでも像を拝観できるように、脱活乾漆技法を忠実に踏襲した模造がつくられて、御身代わり像として開山堂に収められています。

その開山堂へと続く境内の一部には、苔が一面に生えて美しい場所があります。当日は雨が降っていたので、緑がより鮮やかに見えたのかもしれません。京都などではこんなに見事な苔が生えている場所などは、訪れるのに事前申し込みが必要だったりするのですが、ここでは思う存分ゆったりと空間に浸ることができます。

娘が最近苔玉を作るために、近くの公園の片隅などを探索して苦労して苔を集めていました。娘に画像を送ると、実物を見てみたかったと羨ましがっていました。

この寺の年中行事を見ると、五月十九日にうちわまきという行事があります。売店でもハート形をしたうちわが売られていました。

鎌倉時代の覚盛(かくじょう)上人の遺徳をしのぶ法要で、「自分の血を与えるのも菩薩行である」と、蚊を殺さずにうちわで追い払うよう戒めたという故事にちなんだものだそうです。自分だったら蚊を許すことはできそうにありませんが、この行事はいつか見てみたいものです。

10月からは緊急事態宣言も解除されるので、奈良もきっと人が溢れかえるようになりそうです。静かに見られる時期に行けてよかったと思いました。

 

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