手抜き生活

名を呼ぶ その2 ~君の名は~

好きなことや得意なことがはっきりしているのはありがたいことで、母の認知症がこれ以上進まないように何かしなければと考えたとき、真っ先に頭に浮かんだのはカラオケでした。

母は小学生の頃、すごく内気で人前ではしゃべれなかったそうです。でも歌は得意で、先生に指名されて学芸会でソロで歌うことになったそうです。周囲の人達は、こんな大人しい子にできるだろうかと思ったそうですが「いざというときは私は根性があるから、みんなの前で堂々と上手に歌ったから拍手喝采だった。」と何度も母が最も輝いた瞬間の昔話を聞かされました。

歌の上手い演歌歌手がテレビに出ていると、一緒に自慢ののどを震わせて歌い、最後に超高音でオペラ歌手のように「ああああああああ~!」とビブラートを思いっきり利かせて声を響かせるのが、母は大好きでした。昔のようには声が出ませんが、今でもカラオケで一曲歌い終わる度に「あああ~!」と大声を出してどや顔をします。

そんなカラオケの得意リストの中に「君の名は」があります。ほぼ週2日か3日の割合でカラオケを2時間ほどするので「♪君の名はと~尋ねる人あり...♪」と耳にタコができるくらいこの歌を聴きました。戦後すぐのラジオ番組で大ヒットしたドラマの主題歌で、母の年齢くらいの日本人でこの歌を知らない人はいないくらいです。15年くらい前にもリメイクでこのドラマがNHKの朝ドラで放映されました。今の若い人たちには、同じ題名のアニメが数年前に大ヒットしたので「君の名は」と聞くとそちらをイメージするでしょう。

名も知らない男女が出会い、数奇な運命に翻弄され、すれ違いを繰り返しながら、心を惹かれ合っていくという点では、どちらの「君の名は」も同じ主題が根底に流れていて、見るものを惹きつけます。気になる人の名を知ること、その名を呼ぶことは、何か特別な想いを生み出すのだと思います。

宮崎五郎監督のアニメ「ゲド戦記」も、名前がストーリの肝になっています。ゲド戦記の物語の世界では、皆仮の名で呼び合い、真の名は本当に信頼できる相手にしか明かしません。真の名を知った者は、その相手の心を支配し操ることができるのです。詳しくは知りませんが、西欧にも東洋にもこのような名前に対する考え方が昔からあって、民俗学の分野でも研究されているようなので、一度調べてみたいなと思っています。

日本の小学校では、みんな名札を付けることが慣例で当たり前のことでした。ところが、近年いろいろな事件に巻き込まれる子どもが増えてきて、犯罪者が悪意を持って子どもに声を掛けるとき、名札を見てその子の名前を呼びかけるのだそうです。子どもはそれを見抜けずに、自分のことを知っている人だ、だから信用できる人だと思い込んでしまうのです。事件に巻き込まれないようにと心がけている小学校などでは、学校から帰るときは、みんな名札を隠して人に知られないようにさせるそうです。ある意味で名を知られた相手に、心を操られてしまうと言えます。

私自身もこうやってブログを書いていますが、SNSなしでは成り立たないくらいの世の中になってきました。個人のプライバシーなどは、調べようと思うとすぐバレてしまいます。知らず知らずのうちに、何か得体のしれないものに心を操られていないかと、ふと不安になる時代になってしまいました。

 

 

 

 

 

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